専業主婦(夫)と離婚したい|働く側が不利にならないための注意点と対策

突然の「離婚したい」気持ち――専業主婦(夫)との協議で不利にならない?

「自分は働いていて、配偶者は専業主婦(夫)。離婚したいけれど、財産や養育費で損をしてしまうのでは…」
こうした不安を抱く方は少なくありません。

結論からいえば、専業主婦(夫)との離婚では、働いている側が経済的負担を負いやすい構造があります。だからこそ、法的ルールを理解し、証拠や交渉準備を整えて進めることが大切です。

本記事では、専業主婦(夫)と離婚する際に「不利にならないための注意点と対策」を整理します。

1. 財産分与のルールを正しく理解する

婚姻中の財産は「共有」とみなされる

  • 夫婦が婚姻期間中に築いた財産は「夫婦の共有財産」とされます。
  • 専業主婦(夫)の家事労働や育児も「財産形成への寄与」と認められるため、原則として2分の1ずつ分けるのが基本です。

👉 「自分が稼いだお金だから全部自分のもの」とはならない点に注意が必要です。

財産分与の対象になるもの

  • 預貯金
  • 不動産
  • 有価証券
  • 退職金(離婚時に退職しない場合でも、婚姻期間中に積み立てたとされる退職金の見込み額が、財産分与の対象となります)
  • 車、貴金属など資産価値のあるもの

財産分与の対象にならないもの

婚姻前から有する財産及び婚姻中に自己の名で得た財産のうち、夫婦の一方にのみ帰属する財産は、原則として「特有財産」として財産分与の対象になりません。

特有財産の具体例

婚姻前から有していた預貯金、不動産、有価証券、退職金(婚姻前に積み立てていた部分)、相続財産

負債(借金)も財産分与額の考慮要素となる

夫婦や子供の共同生活に必要な負債は、夫婦それぞれが連帯して責任を負うのが公平であると考えられています。そこで、積極財産だけではなく、積極財産のために負担した債務も財産分与において考慮されることになります。なお、夫婦の一方が自身のギャンブルに使用するため等で借り入れた負債は財産分与の対象となりません。

2. 養育費・婚姻費用の負担を見据える

別居中でも「婚姻費用」が発生する

  • 協議が長引き別居すると、収入のある側は生活費を「婚姻費用」として支払う義務を負う可能性があります。

離婚後の養育費

子どもがいる場合は、離婚後も養育費を支払う必要があります。

3. 養育費の計算方法を知っておく

養育費は、家庭裁判所が公表する「養育費算定表」を基準に算出されます。
計算のポイントは以下のとおりです。

  • 両親それぞれの年収(給与所得か自営業かで計算方式が異なる)
  • 子どもの人数と年齢(0〜14歳か、15歳以上かで区分)

👉 例えば、年収600万円の父と年収ゼロの母、子どもが1人(10歳)の場合、算定表では月額6〜8万円程度が養育費の目安となります。

実際の金額は、教育費・医療費・進学状況などを踏まえて増減することもあります。相手から高額な請求を受けた場合は、算定表に基づいて冷静に交渉することが大切です。

4. 慰謝料請求リスクを冷静に確認する

  • 不倫やDVなど明確な有責事由がある場合は、慰謝料を請求される可能性があります。
  • 一方、「性格の不一致」や「価値観の相違」だけでは慰謝料は発生しません。

👉 不当な慰謝料請求を避けるため、相手から主張されそうな点と証拠の有無を確認しておきましょう。

5. 子どもの親権と面会交流

親権は「経済力」だけで決まらない

  • 親権の判断基準は「子の利益を最優先にすること」です。
  • 特に「監護実績(誰が主に子どもを育ててきたか)」が重視されます。

👉 専業主婦(夫)が日常的に子を養育していた場合、親権争いは難航する可能性があります。

親権を争う際のポイント

  • 子どもの年齢・生活環境(乳幼児はこれまで育ててきた親が優先されやすい)
  • 別居後の監護状況(別居後も子どもと過ごしている時間が重要)
  • 親の心身の健康状態(精神的・経済的に安定して子を養育できるか)
  • 兄弟姉妹の一体性(きょうだいが一緒に暮らせるよう配慮)

👉 親権は「子どもにとってどちらが安定した環境を与えられるか」が決め手になります。経済力を強調するだけでは不十分で、日常的な関与や生活基盤を示す証拠が求められます。

面会交流の調整

  • 離婚後も子どもと会う権利は保障尊重されますが、条件の調整には慎重な対応が必要です。

6. 不利を避けるための準備と証拠集め

  • 財産目録を作成(預金通帳、不動産登記簿、給与明細などを保管)
  • 別居開始日や婚姻費用の支払い状況を記録
  • 相手とのやり取り(メール・LINEなど)を保存しておく

👉 証拠があるかないかで、協議や調停での立場は大きく変わります。

よくある質問(Q&A)

Q. 専業主婦(夫)との離婚は、働く側が必ず不利になるのですか?
A. 必ずしも不利とは限りません。ただし、財産分与や養育費などの負担が発生するため、準備なしに進めると相手方の正確な財産や収入がわからず、結果的に損をする可能性があります。

Q. 協議は自分だけで進められますか?
A. 感情的対立や条件交渉がこじれると、調停・裁判に発展する可能性が高いです。協議・調停は、当事者で進めることも可能です。しかし、弁護士会や裁判所を通じた調査や、法律的な判断に対して、専門的な知見を有する弁護士を通じてすすめる方が、不利を避けやすくなります。

まとめ:知識と準備が不利を避けるカギ

専業主婦(夫)との離婚は、働く側に経済的負担が集中しやすい構造があります。
しかし、

  • 財産分与や養育費のルールを理解する
  • 不当な請求に備えて証拠を整える
  • 子どもの利益を軸に冷静に判断する
    といった対策を講じれば、不利を最小限に抑えることができます。

👉 法律事務所Zでは、専業主婦(夫)との離婚で不安を抱える方のご相談を数多く受けています。
早めに専門家へ相談することで、交渉がこじれる前に有利な条件を確保できる可能性があります。

伊藤建 弁護士、法務博士(専門職)、大阪大学大学院高等司法研究科非常勤講師、広島大学法科大学院客員准教授、関西大学法科大学院非常勤講師。内閣府、消費者庁を経て、琵琶湖大橋法律事務所開業後、資格試験プラットフォームを運営する株式会社BEXAを創業。日本海ガス株式会社入社を経て、法律事務所Zを創立。多数の一般民事事件に従事したほか、初の受任事件で無罪を獲得し、第14回季刊刑事弁護新人賞最優秀を受賞するなど、訴訟戦略に強みを持つ。中小企業・ベンチャー企業の一般企業法務のみならず、起業家弁護士として、DX改革や新規事業創出支援、ルールメイキングも得意とする。