経営者との離婚で注意すべきポイントとは?財産分与など気になるお金の問題について弁護士が解説

医師や薬剤師など配偶者の職業ごとに注意すべきポイントについて、これまでも解説してまいりました。今回は経営者と離婚する際のポイントについて、弁護士の視点で解説していきます。

経営者との離婚では、通常の離婚よりも財産分与が複雑になる傾向があります。特に個人の財産と会社の財産の区別がつきにくかったり、経営者本人が財産を隠したり収入を低く申告しているケースもあるため、適切な調査が欠かせません。さらに、経営者は高収入であることが多く、養育費や慰謝料の算定においても専門知識を持つ弁護士のサポートが不可欠です。

経営者との離婚における財産分与について

経営者と財産分与を考える上で争点となるのが、「会社の財産は財産分与の対象になるのか?」という点です。残念ながら会社名義の財産は、財産分与の対象にはなりません。一般的に会社名義の財産は会社のもので、経営者個人の財産とは別ものだと考えられます。

ただし、個人事業主や事業規模の小さい法人などでは、個人の財産と会社の財産の区別が曖昧になっているケースもあります。その場合、会社名義の財産であっても実質的には共有財産であるとして、財産分与の対象にできることがあります。

例えば、明らかに私的に利用するものを会社の経費で継続的に購入していたり、会社名義の車や別荘などを経営者一家が専ら私的に利用している場合などは、共有財産とみなされる可能性があります。

また、配偶者の事業について、ご自身が営業や経理などを無給で手伝い、その結果として出た会社の利益を原資に購入した会社名義の財産については、その価値の一部を分与対象にできる可能性があります。

いずれのケースも専門的な評価や調査が重要になるため、弁護士に相談することが重要です。

経営者との財産分与で注意すべきポイント

財産分与は「共有財産を2分の1ずつ分ける」が基本ですが、経営者との離婚では2分の1より少なくなることもあるので、注意が必要です。

①共有財産の形成への貢献度に著しく偏りがある

婚姻期間が極端に短かったり、別居期間が長くご本人が財産形成に関わっていないと見えてしまう場合や、逆に経営者である配偶者の手腕や才覚が会社の成長や財産形成に強く営業していたり、仕事内容に専門性が認められる場合は、財産分与の割合を下げられてしまう可能性があります。

②特有財産が多い

結婚前に貯めた預貯金や結婚前に購入した家具などは特有財産として財産分与の対象にはなりません。結婚後に親兄弟から贈与されたものや相続遺産などもこれにあたります。経営者は会社や株式、不動産などを結婚前から保有していることも多く、その分共有財産が少なくなる傾向があります。

財産ごとの注意点

①動産

高収入の経営者は、高価な骨董品や絵画、アートなどの高価な動産を多数所有している場合があります。これらの動産は財産分与の対象であり、評価額次第で財産分与の額を上げることができます。相手方はなるべく下げたいという心理が働くので、コレクションを隠したり評価額を低く見積もることがありますので、保有点数を把握することはもちろん、市況と相場を正しく見極めることがポイントとなります。

②株式などの有価証券

株式が姻期間中に取得されたものであれば共有財産ですが、結婚前から保有していた場合や相続・贈与による取得は特有財産として分与の対象外となります。また、上場企業の株式の場合、株式市場の時価に合わせて評価額を決めることができますが、非上場企業の株式の場合、評価方法によって金額が変わります。

また、自社株を分与の対象とする場合、持ち株比率が変わることになります。持ち株比率は会社経営や支配権に大きく影響するため、現物による分与を嫌がることがあります。その場合、条件を飲む代わりに現金やその他の財産による分与を多くできるように交渉すると良いでしょう。

経営者との離婚における婚姻費用について

居住費や生活費、子供がいれば学費や養育費など、夫婦が婚姻生活を維持するために必要な費用を「婚姻費用」と言います。婚姻費用は、収入等に応じて夫婦が互いに分担することが民法760条で定められています。

養育費を含む婚姻費用は、一般的には「算定表」という早見表を用いて算定されます。この算定表を見れば、婚姻費用を支払う方(義務者)と受け取る方(権利者)の収入の組み合わせから、迅速におおよその額を算定することができます。

ただし、この算定表に掲載されている年収には上限があります。収入が、算定表の上限を超える場合、算定表の上限で計算されることが一般的です。事案によっては、総額が参照される場合もありますので、別居前の生活状況等から検討することになります。

また、経営者の家庭では私立の学校に通わせているケースも多く、一般的な水準よりは高額になる傾向にあります。また、習い事をさせているケースでは、養育費とは別で、習い事の月謝なども追加で請求できることもあります。

最後に、経営者が婚前から所持している特有財産からの果実(不動産収益や株式配当)が、収入に入るかどうかも、検討が必要になります。具体的には、特有財産からの果実であっても、婚姻生活において生活の原資となっていた場合には、収入認定できることもあります。

経営者との離婚は弁護士に相談を

このように経営者と離婚をする場合、財産分与の考え方も婚姻費用の算出についても、一般的な条件とは異なります。ご自身では判断が難しいこともあるかと思いますので、弁護士に相談することをお勧めします。

弁護士に相談する際は、多くの離婚事案を扱い、経営者との離婚についても知見と経験のある弁護士を選ぶと良いです。事務所のホームページなどを確認し、経営者の離婚事案の経験があるかどうかを確認しましょう。

伊藤建 弁護士、法務博士(専門職)、大阪大学大学院高等司法研究科非常勤講師、広島大学法科大学院客員准教授、関西大学法科大学院非常勤講師。内閣府、消費者庁を経て、琵琶湖大橋法律事務所開業後、資格試験プラットフォームを運営する株式会社BEXAを創業。日本海ガス株式会社入社を経て、法律事務所Zを創立。多数の一般民事事件に従事したほか、初の受任事件で無罪を獲得し、第14回季刊刑事弁護新人賞最優秀を受賞するなど、訴訟戦略に強みを持つ。中小企業・ベンチャー企業の一般企業法務のみならず、起業家弁護士として、DX改革や新規事業創出支援、ルールメイキングも得意とする。