医師と離婚する場合、財産分与や婚姻費用はどうなるの?医師との離婚で注意すべきポイントを弁護士が解説

財産分与や慰謝料、養育費などお金にまつわる条件は、離婚後の生活を安定的に送れるかどうかに関わるという点で、離婚協議の中でも重要な要素です。これまでもポイントについて解説してきましたが、配偶者が医師である場合、注意すべき点がその他の職業とは異なるケースがあります。今回は配偶者が医師の場合に少しでも良い条件で進めるためのポイントを解説します。

医師の離婚率は高い?

日本では、3組に1組の夫婦が離婚していると言われていますが、なかでも医師の場合は離婚率が高いとされています。過酷な労働環境故に、家庭と仕事の両立が他の職業と比べると難しいことが大きな理由とされています。また、人の命を預かる責任の大きな仕事は心的ストレスも大きく、家族に強く当たってしまったり、配偶者に子育てを任せきりになりがちだったり、家庭不和に陥りやすい要因が多い仕事でもあります。

医師との財産分与は2分の1の原則対象外?

年収が高い医師は、財産の額も大きくなる傾向にあり、財産分与の総額は高額になりがちです。しかし、医師との離婚においては、2分の1を分け合うのが基本の財産分与について、医師ではない配偶者の割合が低くなることがあり注意が必要です。

どういうことなのでしょうか。財産分与は、結婚した時から婚姻関係が破綻した時までに増えた財産を、夫婦で分けることを言います。その割合は共働きか、専業主婦かどうかを問わず一般的には5:5とされています。これは、専業主婦で収入がなくても家事という形で家庭を支えており、資産形成の貢献度を単純に収入だけで判断するのは適当ではないと考えられているためです。

しかし、この原則には例外があり、どちらか一方の収入が非常に高額でかつその仕事内容が高度に専門性がある場合、その事情を考慮して割合が決められることがあり、医師がこのケースに該当するのです。つまり、医師側の財産分与の割合が大きく設定されることがあるのです。

医師との財産分与を高額にするポイント

医師側の財産分与の割合が大きくなる状況で、医師ではない配偶者側の財産分与額を大きくするためには、対象となる財産の金額を正確に把握し、原資の総額を上げることが必要です。財産分与の対象については、こちらの記事で詳しく解説しているので、本記事では医師との離婚で特に意識すべきポイントを解説します。

①開業医の場合の共有財産

開業医の場合、法人化しているかがポイントで、医療法人化しているケースでは、病院の事業用資産を財産分与の対象にすることはできません。ただし、医療法人の資産なのか個人の資産なのかの判断が難しいものもあり、こうした混同されている資産を共有財産にできるかどうかで、受け取れる財産分与額が変わってきます。

②法人化している場合の出資持分

医療法人化している場合で、医師ではない配偶者が出資しているケースでは、出資持分が財産分与の対象となります。離婚を機に法人を退社して出資持分の払い戻し請求を行なう場合、請求時の評価額が高ければ、より高額を受け取ることができます。

③保険や共済など

また、開業医はもしもに備えて高額の保険をかけていることも多いですが、保険、小規模共済なども財産分与の対象となります。

④高価な骨董品や絵画、アートなどの動産

高収入の医師は、絵画やアートなどの高価な動産を多数所有している場合があります。これらの動産は財産分与の対象であり、評価額次第で財産分与の額を上げることができます。相手方はなるべく下げたいという心理が働くので、コレクションを隠したり評価額を低く見積もることがありますので、保有点数を把握することはもちろん、市況と相場を正しく見極めることがポイントとなります。

⑤株式やゴルフ会員権など

株式や出資持分などの有価証券は財産分与の対象です。医師にはゴルフを趣味にしている人も多いですが、ゴルフ会員券も財産分与の対象となります。

医師との離婚における婚姻費用について

居住費や生活費、子供がいれば学費や養育費など、夫婦が婚姻生活を維持するために必要な費用を「婚姻費用」と言います。婚姻費用は、収入等に応じて夫婦が互いに分担することが民法760条で定められています。

養育費を含む婚姻費用は、一般的には「算定表」という早見表を用いて算定されます。この算定表を見れば、婚姻費用を支払う方(義務者)と受け取る方(権利者)の収入の組み合わせから、迅速におおよその額を算定することができます。

ただし、この算定表に掲載されている年収には上限があり、給与所得者であれば年収が2,000万円(開業医の場合は1,567万円)までとなっています。収入が、算定表の上限を超える場合、実収入をベースに計算するか、算定表上の上限を収入とするかは裁判例が分かれています。夫婦の実態に即して、適切な主張を行うことが必要です。

養育費については、算定表の上限を超える収入については、算定表の上限で計算されるが一般的です。

ただし、医師の家庭では私立の学校に通わせているケースも多く、一般的な水準よりは高額になる傾向にあります。また、習い事をさせているケースでは、養育費とは別で、習い事の月謝なども追加で請求できることもあります。この場合、将来医者になるために必要であるとか、受験に合格するために必要であるというように、子供にとってその習い事がいかに必要であるかを主張することがポイントとなります。

医師との離婚は弁護士に相談を

このように医師と離婚をする場合、財産分与の考え方も婚姻費用の算出についても、一般的な条件とは異なります。ご自身では判断が難しいこともあるかと思いますので、弁護士に相談することをお勧めします。

弁護士に相談する際は、多くの離婚事案を扱い、医師との離婚についても知見と経験のある弁護士を選ぶと良いです。事務所のホームページなどを確認し、医師の離婚事案の経験があるかどうかを確認しましょう。

法律事務所Zには、離婚問題の豊富な解決実績のある離婚弁護士が所属しており、医師との離婚事案についても実績がございます。離婚を進める上で必要なアドバイスとサポートを提供いたしますので、あなたが受け取るべきお金について、適切な金額で受け取るために、当事務所に相談してください。

伊藤建 弁護士、法務博士(専門職)、大阪大学大学院高等司法研究科非常勤講師、広島大学法科大学院客員准教授、関西大学法科大学院非常勤講師。内閣府、消費者庁を経て、琵琶湖大橋法律事務所開業後、資格試験プラットフォームを運営する株式会社BEXAを創業。日本海ガス株式会社入社を経て、法律事務所Zを創立。多数の一般民事事件に従事したほか、初の受任事件で無罪を獲得し、第14回季刊刑事弁護新人賞最優秀を受賞するなど、訴訟戦略に強みを持つ。中小企業・ベンチャー企業の一般企業法務のみならず、起業家弁護士として、DX改革や新規事業創出支援、ルールメイキングも得意とする。